受け継いだのは 「飛騨の匠」の技術と美意識。飛騨高山の職人にしかつくれない家具がある ー 北村 卓也 (日進木工株式会社 常務取締役)

 

飛騨高山を代表する木工家具メーカー、「日進木工株式会社」で活躍する北村卓也さん。日進木工を始めとする、飛騨の木工家具メーカーで作られる家具は驚異の「10年間保証」。精巧な木工家具づくりを通して、北村さんが形にしたい世界観とは?先人たちから受け継いだ、飛騨の匠の技術と美意識に迫りました。

人間の創造性と営みに触れ、家業の木工家具の道を歩み始める

高山市桐生町で生まれました。実家として創業73年の木工家具メーカー「日進木工株式会社」を営んでおり、小さい頃から工場が遊び場でした。割と普通に育ったのですが、実は高校に4年間通っています。最初に入った高校がどうしても合わなくて、斐太高校に入り直したんです。

 

他の人があえて選択しない苦労のおかげで、必ずしも人と同じ道を選ばない独特な個性と、多様性を身に付けられたと今になって思います。学業はさっぱりでしたが、取り憑かれたように音楽活動に傾倒しました。この頃は家業を継ぐなんて意識していなかったです。

 

 

京都精華大学人文学部に進学してからは、文化歴史芸術と、今まで知らなかった世界を横断するように学べました。西アフリカのマリ出身のウスビ・サコ教授(現在は同大学の学長)の研究室に入りまして、マリへのゼミ旅行に同行したんです。日本とは風景が全く違うんですよ。土と家畜のフンで固めた家や教会がありまして、一面が荒野で土の文化。すごくカルチャーショックでした。

 

 

在学中は海外のさまざまな国をバックパッカーで放浪しながら、人間の創造的な歴史や文化、その暮らしに親しむ中で「インテリアは面白いな」と家業を継ぐ決心をします。このバックパッカーの経験から、よほど危険な国でない限り、単身でどんな国でも行って帰って来れる度胸がつきましたね。

 

 

卒業後は東京のデザイン会社で2年間ほど修行しました。世界各地の展示会にも同行して、ヨーロッパなど本場で見るインテリアは本当に刺激になりましたね。インテリアのレベルに関してはいまだにヨーロッパと日本には大きな差がありますが、木製家具の加工の技術に関して飛騨地域は世界一流だとの発見もありました。

 

 

北村卓也さん提供

 

その後、日進木工が委託を受けて立ち上げた子会社で、東京・六本木の岐阜県アンテナショップ「オリベスタイル」の運営に3年間携わったり、日進木工の営業として五反田に自社ショールームを立ち上げるために奔走したりと東京で現場を駆け回りました。

 

 

約7年の東京生活を終えて高山へ帰って来てからは、国内営業と同時に海外販路の開拓へも力を注いでいきます。海外販路の開拓は、自分にしかできない仕事として意を決し、頑張ってきた自負があります。

 

 

輸送コストや納期の兼ね合いから、行き着いたのはアジアの近隣諸国の市場です。現在は取引先が8ヶ国に増えてきましたが、まだまだ挑戦途中ですね。いずれはもっと世界に販路を拡げていくことが目標ですが、世界から見ても「高品質で純度が高いデザイン」として評価されているのはとても嬉しいです。

 

「10年間保証」の家具づくりは、飛騨の匠の技術と誇り

2008年に協同組合 飛騨木工連合会として、「飛騨の家具」と「飛騨・高山の家具」を地域団体商標に登録しました。先人たちの築き上げてきた「飛騨の家具」ブランドを、より確固たるものにしていく決意ですね。

 

北村卓也さん提供

 

他産地と比較して唯一、イスや机などの脚物で発展してきたのが飛騨の家具です。線が細くて、かつ強度も必要な脚物は当然難しい。しかし、毎日触れて動かす家具ですから軽いことは大事です。

 

 

日進木工では選定した良木を一年以上かけて、自社で天然乾燥させています。加工を施した材料というよりは、自然本来が持つ力を活用するイメージです。また飛騨の匠が成せる「曲げ木」の技術を生かして、曲げた木を張り合わせてさらに削り上げたりと、その工程の多くは手作業で作り上げます。

 

 

だからこそ、日進木工を始めとする飛騨の木工家具は「10年間保証」です。それだけ長く良い物を使っていただけるよう、飛騨の木工メーカーの一員として、お客様を裏切らない技術プライドがあるからです。大手や海外の格安家具の台頭で、木工家具産業は収縮し続けています。しかし価格ではなく、品質デザインで勝負していきたい。

 

 

その甲斐があってか人手不足が叫ばれる中で、ありがたいことに木工職人を志してくださる若者が多いです。最近は女性の職人もすごく増えていまして、こうして飛騨の匠のDNAが受け継がれていくのを感じています。厳しい業界なので生き残っていかなければならない危機感はありますが、ライフスタイルや世界観を創っていく家具メーカーであることを大事にしていきたいですね。

 

豊かな日々の楽しみと、年月を共に重ねられる家具を。

ところで僕は温泉が好きで、最近は高山市丹生川町にある「荒城温泉 恵比須之湯」がお気に入りです。飛騨人は分かると思いますが、すごくパワーがありますよね(笑)。

 

たまにフラッと散歩するのも好きです。宮川沿いを歩いて、夜は朝日町に繰り出す。バーの「ラム ダンスホール」でウイスキーをちびちびと飲みながら、良い音楽を聴く。僕の好きな自然文化に触れて楽しめるのが飛騨の魅力ですかね。

 

そう大層なことはしなくても、楽しみを重ねて暮らせたらいい。また街のそこかしこに、飛騨人の息遣いが眠っています。それはすごく素敵なことなのだと、僕も40歳手前になってようやく気づけました。

 

 

家具は人の生活を豊かにするものであり、毎日の家族の食卓や団らんを囲む大事なものです。時を経て美しくなっていく物を愛することは、飛騨人ならではの感性だと思います。だからこそ、お気に入りの家具と一緒に歳を重ねて欲しいですね。

 

人類の歴史や営みは「衣食住」があってこそ。
本当に豊かで人間らしい暮らしとは何でしょうか?
飛騨の匠のDNAが息づく、日進木工の家具は私たちに問いかけています。

連絡先

北村卓也
https://www.facebook.com/takuya.kitamura.792

 

日進木工株式会社 公式ホームページ

 

 

この記事を書いた人

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丸山純平

丸山純平(まるやま じゅんぺい)
高山市出身。株式会社ゴーアヘッドワークス 企画/ライター
ヒダストのほぼ全ての記事を書いています。
最近は飛騨ジモト大学の事務局も担当。
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