「日本一のほうれん草」は飛騨の宝。激動の時代を迎える農業で、未知なる挑戦を続ける! ー 山下喜一郎 ( ミチナル株式会社 代表取締役 )

高山市を代表する野菜といえば「ほうれん草」!
その出荷量は、市町村別で日本一を誇ります!しかし、積極的に日本一をアピールしている訳ではなく、多くの飛騨人はその事実を知りません。

 

「もっと飛騨ほうれん草を広めたい!!」

そんな想いで立ち上がったのは、ほうれん草を中心に野菜の加工・販売業を営む 「ミチナル株式会社」 代表取締役の山下喜一郎さん。

 

なぜ、日本一のほうれん草はアピールされていなかったのか?
これからの10年で、農業分野ではなにが起きるのか??

未知の可能性へ挑戦し続ける山下さんのストーリーと、ほうれん草への愛をどうぞご賞味ください。

山一商事の3代目として生まれ、キリンビール九州支社で修行する

高山市花岡町で生まれました。実家は大正14年に創業した「山一商事株式会社」で、食品加工・卸し業を営んでいます。

山一商事株式会社 様から提供

家業は割と身近な存在で、仕事をする親の後ろ姿を見ながら育ちました。父親からは「将来、跡を継ぐんやぞ」と言われていましたが、この頃は嫌でしたね(笑)。

とは言え、明確な意思があったわけではない僕は、ボンヤリと大学に進学して、東京で学生生活を送ります。

親には反発していたくせに、就職活動になると食品系の会社ばかり受けていました。大学卒業後は「キリンビール株式会社」に就職しまして、九州支社を中心に5年ほど営業の仕事をします。

九州は人を育てる気質に溢れる街でした。博多弁で「やってみんしゃい!」と、上司もお客様も背中を押してくれました。今の僕の考え方や在り方のベースになっている経験です。

父親からの誘いを機に地元へ戻り、家業の「山一商事」に入社します。

山一商事株式会社 様から提供

都会に出たからこそ地元の良さが見えてくるもですね。この頃はむしろ、家業を盛り上げようと決意していたくらいでした。

産地偽装問題を機に、経営者としての覚悟を決める

家業に入ってからは営業に周りながら、主力商品であった山菜やキノコの加工製品の製造現場にも携わりました。

しかし徐々に、大手企業だった前職と家業を比較してしまうんです。仕事の仕方が古臭いものに見えてしまい、文句ばっかりが口をついて出ます。そんな僕ですから、新しい取り組みを始めようとしても社員の多くには反対されて、ついには古株の社員が何人か辞めてしまいます……。

今思い返すと、ただただ僕が未熟だっただけです。上手くいかない時期が5年くらい続きましたね。

 

そんな折に、ついに事件が起きます。関連会社で作った加工商品が、実は表示とは違う産地の原料を使っていました。産地偽装です。

関連会社とはいえ、自身の経営下でその事件が起きたことへの罪の意識、お客様・関係者へ不安を与えてしまった申し訳なさから仕事を辞めたいとも思いました。でも、僕の他に会社を変えていける人はいなかった。現状も批判も甘んじて受け入れようと覚悟を決めたのが、32歳の時でしたね。


もう二度と、このような事件は起こしてはならない。

その覚悟のもと、膿は出し切ろうと関連会社も清算して再スタートを切ります。岐阜県内では最も早く、コンプライアンス(法令遵守)委員会も作りました。

 

もう20年も前の出来事ですが、私の原点の一つですこの事件をきっかけに、徹底的にデータを調べて公表していくスタイルに変えたことが、今の事業の強みに繋がっていきます。

「捨てない農業」を目指し、ミチナル株式会社を起業!

次の転機は、山一商事の主力商品だった「山菜」からの事業転換です。時代の流れから山菜の需要が年々落ちており、せっかくなら地元産の原料を使って新商品を開発しようと、第一弾として売り出したのが「飛騨牛まん」です。

山一商事株式会社 様から提供

飛騨牛まんの販売は好調でしたが、山菜の加工経験を活かせる食材を探していく中で、たどり着いたのが「ほうれん草」でした。

ミチナル株式会社 様から提供

実は企業研究の一環で、土壌の細菌を調べるために社内でほうれん草を栽培していたのです。そのほうれん草の出荷(調整)作業の現場で、大きな発見がありました。ほうれん草は出荷時に、早く変色し始める「貝割れ葉」や「下葉」を取ったり、「茎折れ」や「規格外品」を捨ててしまうんですね。

ミチナル株式会社 様から提供

この調整作業で捨てられる量は、全収穫量の20~30%になるとも計算されており、僕自身とても「もったいない」と思いました。

実際に捨てられる予定の端材を持ち帰り、食べてみたら美味しいんです。味や成分は全く問題ありません。なんとか加工できないだろうか?「捨てない農業」を志し、ほうれん草の加工事業を立ち上げて、ミチナル株式会社を起業します。

ミチナル株式会社 様から提供

ミチナルでは、東海地方でも随一の冷凍機械など、かなり充実した設備を有しています。とはいえ、加工業に関しては後発組で、工場自体も大きくはありません。

どう商品をブランディングしていくのか?そこで初めて、「日本一のほうれん草」にたどり着きます。

農家さんが「日本一のほうれん草」をPRできなかったネガティブな理由

ほうれん草のブランディングを調べていた時に、高山市のホームページを見たら「高山のほうれん草は日本一の出荷量」と記載されていました。統計上でもたしかに、市町村別の出荷量はダントツで日本一なんですよ。

ミチナル株式会社 様から提供

ではなぜ、日本一なのに注目されていないのだろうか。大々的にアピールしていないのだろうか。農業関係者にヒアリングしていくと、徐々に実態が見えてきました。

実は、ほうれん草にはネガティブな成分が二つ含まれているんです。一つは、ヨーロッパでは発ガン性があると言われている「硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)」。もう一つは、尿路結石の原因となる「シュウ酸」

他地域に比べて飛騨のほうれん草は、この2種類の成分を多く含んでいると言われていました。だから農家さんは栽培したほうれん草に自信はあるものの、確信を持って販売ができなかったんですね。

ミチナル株式会社 様から提供

ここでミチナルの出番です。僕らは加工業者なので、月に一度以上のペースで成分などを厳しくチェックしなければなりません。「僕らが継続的に、徹底的に調べます!」そう宣言をさせて調べ始めてから2年間、いまだに基準値を超えるほうれん草は一切出てきていません。

こうしてエビデンス(証拠・根拠)を示すことで、少しでも農家さんの自信の後押しになればと思っています。

ミチナル株式会社 様から提供

調べていく中で、面白いデータも見つかってきています。通常、ほうれん草の旬は11月〜1月ですが、高山のほうれん草は夏場の出荷がメインです。夏に適合した高山のほうれん草は葉緑素が高く、通常のほうれん草よりも栄養価が高いことが分かってきたのです。

来年にはその研究データも公表できそうなので、ますます日本一のほうれん草ブランドが高まりますね。

「ホウレンソウ社長」と「飛騨抹草」で、日本一のほうれん草を伝える

ほうれん草に限らず、飛騨の良い物を多くの人に広めたい。そんな想いで、Youtuber「ホウレンソウ社長」としての活動も始めました。時代は動画ですね。

ミチナル株式会社 様から提供

全身緑に包まれた、分かりやすいアイコンの存在は大きいです。イベントに行くと、子どもたちに握手を求められます(笑)。

「ホウレンソウ社長」に限らず、子どもたちと関わることは想像以上にリターンが大きいです。工場見学も積極的に受け入れていますが、小・中学生や高校生はとくに反響があります。「日本一のほうれん草」を知ってもらって、「地元はすごい!」と喜んでもらえることに涙が出ますね。

 

子どもたちに関連して、最近 力を入れて売り出しているのは、ほうれん草を特殊パウダー加工した「飛騨抹草(ひだまっそう)」です。

ミチナル株式会社 様から提供

風味は苦みを抑えた抹茶です。実は抹茶はカフェインの含有量が多いのですが、飛騨抹草はほうれん草の粉なのでノンカフェイン!お子さんや妊婦さんも安心です。

なによりも、この飛騨抹草は美味しいんですよ。マシュマロにまぶして子どもたちに試食させると大絶賛。両親や祖父母に飛騨抹茶をねだるんです。「野菜の粉」を子どもが食べたがるってありえない話ですよね(笑)。

こうして、子どもたちがほうれん草を美味しく食べてくれて、地域に誇りを持ってもらえる。この瞬間を一つ一つ増やしていくことが今の大きな目標ですね。

農業と観光は密接に繋がっているからこそ、飛騨高山で持続可能な農業を実現する

現代では核家族や単身世帯が多数派ですから、スーパーで売っている野菜は量が多いですよね。大根一本、いや1/2本でも家庭で食べきれない。

なにが言いたいかというと、今後は冷凍野菜、もしくはカット野菜が主流になります。すでにヨーロッパでは、カット野菜が野菜コーナーのメイン商品です。

スーパーに限らず、これからの10年で食の業界は大きく変わります。現実問題として、平成28年度の統計では全国の農業人口の平均年齢は「66.8歳」です。

さらに高齢化が進み、農業を辞める方も増加していく中で、国産野菜の値段がグッと上がるタイミングが来ます。10年後には、日本で農作物が作れなくなってもおかしくありません

ミチナル株式会社 様から提供

この飛騨地方において、持続可能な農業と流通環境を整えることは最重要課題だと考えます。なぜならば、農業と観光は密接に繋がっているからです。

観光において、その土地の食は外せない観光目的ですよね。京都が一目瞭然で、「京野菜」ブランドが確立されています。最近では鎌倉でも「鎌倉野菜」が盛り上がっています。つまり、農業がイキイキしていない地域では観光もダメなのです。

飛騨地方は強く農業を育ててきたからこそ、後継者に恵まれている農家が多い地域です。まだまだ勝負できます。

僕も今年はいよいよ50歳。飛騨高山に持続可能な農業をつくるため、飛騨の宝である「飛騨ほうれん草」を広めていくため、ミチナルの挑戦はここからです。

激動の時代を迎える日本の農業の危機は、飛騨人にとっても他人事ではありません

気づいたら当たり前になっている豊かな食文化は、美味しい野菜やお米は、失くしてしまってから気づいても取り戻せません。

今日も「日本一のほうれん草」を熱く語り、農家さんと真摯に向き合う山下さん。その未知なる挑戦は、実りある収穫の時を迎えるまで続きます。

連絡先

山下喜一郎 ( ミチナル株式会社 代表取締役 )
https://www.facebook.com/kiichiro.yamashita.1

ミチナル株式会社 公式ホームページ
http://www.michinaru.com/

Youtuber「ホウレンソウ社長」

飛騨抹草
http://www.michinaru.com/hida_masso/

【ミチナル株式会社】
住所:岐阜県高山市一之宮町字下渡瀬177番地
TEL:0577-53-3776
MAIL:info-main@michinaru.com

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丸山純平

丸山純平(まるやま じゅんぺい)
高山市出身。株式会社ゴーアヘッドワークス 企画/ライター
ヒダストのほぼ全ての記事を書いています。
最近は飛騨ジモト大学の事務局も担当。
一緒に飛騨を盛り上げたい方募集中!好きな食べ物はチーズケーキ。