床屋は「人」と「情報」が集まる大人の社交場 ー 永田誠人 ( 理容飛騨 )

高山市は櫻山八幡宮の近くで「理容飛騨」を営む、理容師の永田誠人さん。

永田さんの「ブログ」は飛騨の歴史やイベントスポットの紹介をメインに、365日毎日更新されることで有名です。

情報発信だけではなく、老舗の床屋を経営しながら、「赤カブキムチ」の製造販売や「サッポロビール」の企画営業などさまざまなチャレンジを経験されました。

理容業の枠に捉われない永田さん。「日々前進」を続けるその想いの原点を取材しました。

ハサミに300万円の投資。大阪での10年の修行生活

高山市大新町に生まれました。実家は創業47年の床屋「理容飛騨」でな。理容師の父親が一代で築いたお店なんやさ。

高山市大新町の「理容 飛騨」

小さい頃は泣き虫でな、少林寺拳法を10年くらい習ったな。今でも身体は鍛え続けとる。

家業は身近にあって、タオルを洗うお手伝いが日常やった。父親から耳元で「床屋…理容師….」と洗脳されて育ったようなもんや(笑)。自分も理容師を目指すことに疑問を抱いてなかったな。

高校生の永田さん。平和主義者で喧嘩はしなかったらしい。

平成元年に高山西高校を卒業し、大阪の理容専門学校に進学した。父の弟も理容師で、大阪でお店を構えていたからそこに住み込みやったな。学校に通いながら働き、卒業後も引き続き10年ほど修行したんかな。

初めは「シャンプー」から仕事を一つずつ覚えて、徐々に仕事を任せてもらえるようになったな。そうなると自分のこだわりも生まれてくる。

修行時代の若かりし永田さん

専門学校を卒業してすぐ、出会ったハサミをすごく気に入って、300万円ほど投資して器具を揃えたな。

このすきバサミは27万円くらいする。独特の形をしとるやろ。他にも刈り上げ専用や最後の仕上げ用など、主に5本のハサミを使い分けとる。どれも20年以上使えとるよ。

永田さんの20年来の相棒、27万円のすきバサミ。

28歳の時に修行に区切りをつけて、地元の高山に戻って来た。ひたすら働いていた大阪と比べて、のんびりとした高山にモヤモヤした時期があったな。「このままで本当に大丈夫か?」人生を変えるチャンスを探していたことが、次の転機に繋がっていくんやな

人生のチャレンジは「YEG」と「赤カブキムチ」

32歳の時、町内の先輩に勧められて「高山商工会議所青年部会(YEG)」に入会した。YEGとの出会いは大きかったな。

YEGは20歳から45歳までの青年経済人が交流し、自己研鑽を積む場所でな。卒業まで13年間所属して、資料作成や会議の仕方、人の動かし方、時間やお金の使い方…本当にさまざまなことを学んだな。

13年間所属したYEGの卒業式

このYEGの繋がりから、ビジネスプランコンテストに誘われたんや。とりあえずやってみようと、二つ返事で参加を決めた。

ちょうど同時期に、高山市内の在日韓国人との縁で、本場韓国のキムチのもとに出会った。ここから、地元の代表的な漬物素材である赤カブとのコラボ商品「赤かぶキムチ」の製造販売企画を思いついたんやさな

「赤かぶキムチ」はコンテストでも高評価で、実際に製造・販売を始めることになった。地元農家から赤カブの20キロ入りケースを50ケース、つまりは1トン購入したな!地元スーパーや焼き肉屋さんに卸す販路を開拓して、ネット販売の準備もした。肝心の「赤かぶキムチ」は手作りやでな

さまざまなメディアに取り上げられた「赤カブキムチ」

しかし、商品の斬新さや値段設定で中々売れんかったのよ……。追い打ちをかけるように、北海道で浅漬けの漬物による食中毒の事件が起こった。国から製造中止の通達が出て、この事業は失敗してしまうんやさな……。味には自信があったから、本当に悔しかったな。

だけど、なによりも一番得られたことは、生涯を通じて信頼できる仲間ができたことやもんでな。そしてこの失敗経験が、次の「サッポロビール」の企画で活きてくる。

「大星会」会長として、サッポロビールとコラボする一大事業!

師匠に誘われて、サッポロビールを愛する経済人の集まり「高山大星会」に入会したのが、40歳の時や

永田さんが会長を務めた年が「高山大星会」の30周年記念

真面目に出席していたら、44歳の時に高山大星会の会長を務めさせていただいたんや。会としても30周年のめでたい節目で、加えて翌年高山祭屋台が「ユネスコ無形文化遺産」に登録されたんやな。

このおめでたい年に、サッポロビールとコラボして地域貢献ができないやろうか?

ユネスコ登録を記念する缶ビールの企画を構想して、サッポロビール支社長に向けてプレゼンした。無事にご快諾いただいて一大プロジェクトスタート。

サッポロ生ビール黒ラベル 高山祭屋台デザイン缶 ポスター

 

「高山屋台保存会」を始め、「飛騨・高山観光コンベンション協会」など、大星会メンバーにもたくさんご協力をいただいたな。ユネスコ登録の記念イベントに合わせて販売開始したら、ものすごい本数が売れた。1本の売り上げにつき1円を屋台保存会に寄贈したんやけど、寄付総額12万円になったからな。嬉しかったな。

今後は新たに、ラベルを貼った瓶ビール販売計画を立てとる。こうやって一人の理容師である俺が、いろんな人に支えてもらって挑戦できる環境はありがたいな。それに赤カブキムチで一度失敗しているからこそ、サッポロビールは上手くいった。人生は不思議なもんやな。

 

基本的に頼まれたことは断りません。秋の高山祭の神事で演奏する「雅楽会」に入会したり、「雫宮祭」の実行委員会を務めたり、選挙のお手伝いをしたり、祭りの神輿を作ったり…….etc. 

こんな俺にも頼んでもらえるのがありがたいし、きっと物事には意味があるでな。なにかに繋がっていくはずなんや。

毎年3月に開催される「雫宮祭」

9年間、毎日更新している「飛騨の歴史」ブログ

40歳の時に、ある方から「営業に力を入れろ」とアドバイスをいただいて、ショップニュースを始めたんやな。でも、ただお店の情報を発信しても多くの人は読まん。なにか喜んで見てもらえる工夫ができんやろうか?

悩んだ末に、飛騨の良いスポットやイベント、歴史情報を配信するブログを始めたんや。

岐阜県高山市「理容飛騨」から「飛騨のイイところ」を配信する情報ブログ!
https://riyouhida.hida-ch.com/

 

「飛騨の歴史」に着目した理由として、この頃に「雅楽」を始めたのが大きかったな。

YEGでは地域貢献の大切さも教わっていたし、いろんな点が繋がったんやな。

 

今のひだっちブログに移る前から含めると、9年ほど毎日更新しとる!一番苦手な「継続」することに挑戦したな(笑)。ここまで来ると、途切れたら気持ち悪いもんな。

 

毎年365日更新し続けると気づくこともあって、例えば6月はイベントが少なくてネタに困っとる(笑)。冬は奥飛騨の方が盛り上がっとるな。歴史ネタで言えば、地域の寺社仏閣には逸話や伝説が残っとることが多くて面白いんや。

 

「飛騨の話を聞きたい!」とお客様がいらっしゃることも増えて来て嬉しいな。まだまだ更新できていないネタもいっぱいあるんやさ。飛騨の魅力は尽きんな。より、地元のことが大好きになったきっかけやな。

床屋は「人」と「情報」が集まる大人の社交場

全国各地で床屋はどんどん減っとる。高山では年に3軒以上閉めとるんかな。理容師の平均年齢も70歳以上で、厳しい現状やな。

極端な話、髪は自分で切ることもできるし、切らなくても死ぬことはないよな(笑)。つまり「床屋」は、街の住民に余裕がないと儲からない商売なんや。じゃあどうしたら、みんなに余裕が生まれるのか。難しいけれど、この「余裕」や「豊かさ」とはなにか考えることは大事やでな。

今までの理容師は職人肌なのか、散髪技術の向上ばかり重視されてきた業界や。確かな技術はもちろん必要やけど、自分の技術は押し付けるものではなく、お客様の願いをどう実現するかに使うもの。

床屋ができることはまだまだいっぱいある。ショップニュースなんて序の口で、もっと情報発信の場として機能するはずや。昔は床屋と銭湯が大人の社交場で、人と情報が集まる場になっていたからな。

カットさせていただく1時間ほどのお時間で、お客様とお話ししながら、求められれば有益な情報を提供する。逆に自分の財産となる情報をいただけることもある。

お客様にはいろんな部分で満たされてほしい。そして最後には、「サッパリした!」と気持ち良く帰っていただける。そんな仕事をこの街で、これからもしていきたいな。まだまだ、日々前進なんやさ。

快活で、お酒と祭りが好きで、頼りがいがある。まさに「飛騨のおっちゃん」代表の永田さん。

「誠人」の名の通り、人と誠実に関わって来られた永田さんだからこそ、今日も「理容 飛騨」にはたくさんの人と情報が集い、賑やかな笑い声が響いています。

永田誠人さん 連絡先

永田誠人
https://www.facebook.com/profile.php?id=100003269788811

「理容 飛騨」
住所:高山市大新町1-39 ( 駐車場 有 3台 )
TEL:0577-33-4832
営業時間:AM8:30~PM7:00
定休日:毎週月曜日・第1火曜日・第3日曜日

・理容飛騨 フェイスブックページ
https://www.facebook.com/101919703251274

・「理容飛騨」から「飛騨のイイところ」を配信する情報ブログ!
http://riyouhida.hida-ch.com

 

 

この記事を書いた人

アバター

丸山純平

丸山純平(まるやま じゅんぺい)
高山市出身。株式会社ゴーアヘッドワークス 企画/ライター
ヒダストのほぼ全ての記事を書いています。
最近は飛騨ジモト大学の事務局も担当。
一緒に飛騨を盛り上げたい方募集中!好きな食べ物はチーズケーキ。