「逃げ」から「進化」へ。飛騨萩原で生きていく決意と想い ― 熊崎穂波 ( ホナミルクラボ 代表 )

photo by 丸山純平

下呂市萩原町で乳製品の加工販売店「ホナミルクラボ」を経営する熊崎穂波さん。

20代前半の若さで乳牛2頭とともに就農し、オリジナルのフレッシュチーズや飲むヨーグルトを生産・加工・販売しています。

一見、華やかで順風満帆に見える経歴ながら、「『起業』は『逃げ』の選択肢だった」と話す熊崎さん。飛騨萩原から挑戦を続ける彼女の決意と想いをどうぞご覧ください。

北海道でチーズに目覚め、人生が大きく動き出す

下呂市萩原町で、4人姉弟の次女として生まれました。実家は、子牛を産み育てる「和牛繁殖農家」を営んでいます。小さい頃から動物や植物が好きでしたが、特別得意なことがあるわけではなくて、可もなく不可もない人生でした。

 

地元で就職できればいいかなと思い、益田清風高校のビジネス商業科に進学します。高校生活は楽しかったけれど、大きな夢も希望もない日々でした。

 

熊崎穂波さん提供

 

そんなわたしを見兼ねた父の提案で、高校3年生を目前に控えた春休み、父と姉とわたしの3人で北海道へ視察を兼ねて旅行しました。北海道では父がお世話になった酪農家さんを訪ねて回ったのですが、ある農場でいただいた搾りたての牛乳が本当に美味しかったのです。また別の酪農家さんではチーズを加工していまして、液体の牛乳が固体に変化していく過程が衝撃でした。

 

美味しい牛乳とチーズに出会ったことで、「乳牛を育てて、酪農をやってみよう!」と、夢も希望もなかった自分がコロッと変わってしまいます(笑)。そうして高校卒業後は、長野県の農業学校へと進学しました。

 

「のどかな大高原」がうたい文句の農業学校でしたが、標高1250メーターの山奥にあって、冬は鼻毛が凍るくらい寒いんですよ(笑)。毎朝6時のマラソンから始まるハードな寮生活で、狭い人間関係の中で精神も鍛えられました。30人のクラスに女子は3人しかいなかったので、人生最大のモテ期でしたね(笑)。

 

長野の農業学校で、初めてのチーズ作りも経験します。風呂桶みたいな装置に何百リットルもの牛乳を入れてかき回し、大きなチーズを作るんです。乳酸菌や「レンネット」と呼ばれる凝固剤を入れて混ぜると、杏仁豆腐みたいに徐々に固まってきます。やがて水分が抜けて柔らかくなった状態から、発酵させて熟成させるとチーズの完成です。

わたしの農業スタイルって?悩んだ末に開業した「ホナミルクラボ」

農業学校の卒業後は、福井県の農場で1年間ほど修行させていただきました。その農場では主にヤギの世話をしながら、ヤギの乳を搾ってチーズを作っていたのですが、「大量のチーズを作るためには、何頭のヤギが必要なんだろう・・?」と考えだすと、現実的に女性一人で酪農を営む難しさを感じました

 

熊崎穂波さん提供

地元に戻ってきてからは、農薬を使わない野菜農家さんで研修しながら、就農準備をしていました。畜産メインで学んできたけれど、牛や鶏の糞尿を使って野菜を育てる循環型農業にも憧れがあり、またわたしは農薬で手が荒れやすい体質で、安心して食べられるものを作りたい想いもありましたね。また、収穫した野菜の配達や対面での販売にも携わることで、「自分で作ったものを自分で販売する」のがわたしの農業スタイルだと気づき始めます。

 

そうして2014年、両親から乳牛2頭を譲り受けて新規就農しました。当然ですが、朝昼夜と餌をやって牛の世話をしないといけません。また朝と夕方の2回搾乳しまして、両親の農場へ牛乳を卸す日々を送ります。

 

熊崎穂波さん提供

 

そうした家庭内で完結する閉鎖された環境下に、徐々にストレスを抱えるようになってしまいます・・。やっぱり私のやりたい農業スタイルはいろんな方と出会ってお話しして、直接販売することだったからです。

 

そんなわたしを見かねた下呂市役所の職員さんが心配してくださり、「対面販売のお店を作りなさい!」と背中を押してくださいました。もともと、いつか自分のお店をオープンさせたい気持ちはありましたが、このタイミングでの「起業」は、「逃げ」の選択肢だったように思います。それでも覚悟を決め、開業届を出しました。

 

開業に向けて商品のパッケージを作り、店舗を借りて改装するのは大変で・・上手くいかないことばかりでしたが多くの方に助けていただき、「ホナミルクラボ」が飛騨萩原駅前にオープンしました。

 

photo by 丸山純平

 

これから進化していく、ホナミルクラボもわたしも

酪農経営の傍ら、チーズや飲むヨーグルトを加工して、店頭販売やイベント出店を行うことは確かに忙しくはあります。だけど全く苦ではありません。常連のお客様にもたくさん恵まれました。

 

熊崎穂波さん提供

 

牛乳は気温や季節、牛が前日に食べた物で味が変わります。ホナミルクラボでは乳牛に生草を食べさせたりと、変化を楽しんでいただけるように工夫しています。

 

今後は少しずつホナミルクラボの形を変えて、飲食業を拡大していきます。チーズを使ったケーキ作りや、ヨーグルトに合う地元産のジャムやドライフルーツも作りたいです。チーズの種類もどんどん増やして、ワクワクする商品を揃えたくて、7月下旬にはヤギのチーズを販売できるように試行錯誤しています。

 

熊崎穂波さん提供

 

 

仕事外では、若者が地元を楽しむ機会をどんどん作っていきたいです。せっかく地元に帰ってきたのに同世代はあまり元気がなくて、休日は富山や名古屋に遊びに出ちゃう生活がもったいない。もっと下呂を始めとする飛騨地方を楽しんでほしい。楽しむためには豊かな自然や、素敵な飛騨人と関わることが必要だと思うんです。その機会をつくったりサポートができるように、わたしにできることを積み重ねていきます。

 

熊崎穂波さん提供

 

「逃げ」から始まった創業でしたが、今は前向きに日々を楽しんでいます。もちろん大変なことや新たな壁はたくさんありますが、その過程でホナミルクラボやわたし自身が進化しているのも感じています。数年後はどうなっているのでしょうかね?予想はできませんが、引き続きわたしらしく、この土地で大好きな人や動物たちと笑い合っていたいです。

 

熊崎穂波さん提供

 

「萩原の街が大好きだから」そう、柔らかい笑顔で話す熊崎さん。

20代前半での就農・起業は想像以上に困難だったはず。そんな苦労を表に出さず、今日も熊崎さんはしなやかに温かく、等身大の幸せを飛騨萩原で営んでいます。

ますます進化していく熊崎さんとホナミルクラボに注目です!

連絡先

熊崎穂波
https://www.facebook.com/honami.kumazaki.5

ホナミルクラボ
https://www.facebook.com/honamilklab/

Instagram
@honamilklab

この記事を書いた人

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丸山純平

丸山純平(まるやま じゅんぺい)
高山市出身。株式会社ゴーアヘッドワークス 企画/ライター
ヒダストのほぼ全ての記事を書いています。
最近は飛騨ジモト大学の事務局も担当。
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