「トマト店長」と、愛される地元スーパーを目指して ー 牧ヶ野芳男( 株式会社駿河屋魚一 / エブリ東山店 店長)

飛騨高山のスーパーには「トマト店長」がいる?!

株式会社駿河屋魚一エブリ東山店で、店長として活躍する牧ヶ野芳男(まきがのよしお)さん。地方の食品スーパーにしては一見奇抜な、トマト店長の活動に込められた想いとは?

思わずトマト店長に会いに行きたくなっちゃう。牧ヶ野さんのストーリーをご覧ください!

内気でおとなしかった学生時代

高山市総和町で生まれました。両親は当時「牧ヶ野製麺所」という家業を営んでおりまして、うどんやそばの麺作りを僕もよく手伝っていましたね。

小さい頃は、今とは正反対の性格でした。人の前には出れない内気な子。返事や挨拶だけは元気だったんですけどね(笑)。マジンガーZやデビルマンのようなアニメが大好きで、ウルトラマンや仮面ライダーといった特撮もよく観ていました。

 

小学生になっても変わらず、陰に隠れておとなしく生活する日々です。中学校では、上下関係があんまりなさそうな個人競技という理由で、陸上部に入りました。また当時は女の子から「可愛い」と言われる風貌で、そんな時期もあったんですよ。

 

絵を描くことが好きで、ノートに落書きをいっぱい描いたり、漫画を自作していました。この頃、将来は「看板屋」になりたいと思い浮かべていましたね。

 

やがて飛騨高山高校の経営科に進学します。当時は経営科のみが男子クラスだったので、他生徒はほぼ女子ばかり。肩身が狭かったですが、地味に過ごしていた僕でも割とモテたんですよ(笑)。しかし当時の僕は硬派(笑)で通していたため、女子と触れ合うことは避けていました。今思えばなんともったいない(笑)。それでも楽しい高校生活でした。

 

 

高校ではサッカー部に入っていたのですが、3年生の春くらいに演劇部の顧問から「女子ばかりだから男子が欲しい」と誘われました。当時の僕はクラス内のじゃんけんに負けまして、風紀委員長を務めていたんです。生徒会なので事あるごとに壇上で喋る機会が多いんですね。「生徒会をやっているんだから、平気だろ」と連れてかれて、ちょっとだけ演劇をお手伝いしたことが、後々にも繋がっています。

 

当時偶然にも企業実習で、駿河屋本町店で研修させていただきました。年末にはブリや煮イカを売るアルバイトを経験するなど、前からご縁があったんですよね。でも当時の僕は、高校卒業後にやりたいことが思い浮かばず、かと言って大学に進学するつもりもありません。

 

家業を継ぐ選択肢は正直なかったです。自分自身継ぎたいとは思えず、親も大変だから継がせるつもりはなかったみたいです。地元企業への就職を考える中で、先生に進められた「ひだ高山中央市場」へ就職します。

ダメダメな社会人生活からの決意

市場の仕事は、朝早いイメージがありますよね。今と比べたら労働条件がゆるい時代でしたので、朝4時半に出勤して夕方まで働いていました。当然朝は眠たいし、遊びたくても友人の誘いに乗れない。そんな仕事のサイクルに合わせた生活でした。

 

僕は青果物の営業担当だったので、相場表を片手に高山市内の食料品店を回り、バナナやパイナップルを売り込む日々です。だけど大きな目的がないから、日々の仕事に流されるんですよね。僕は上手に売り込みもできなくて廃棄ロスを出したりと、あんまり良い社員ではなかった。

 

また仕事をしていて当然、理不尽なことや嫌なこともあります。「なんで頭を下げてまで、買ってもらわなきゃならないんだろう」そう思い始めると仕事に行きたくなくなるんです。

自家用車で営業に回っていたから、目立たない駐車場でサボってお昼寝ですよ。夕方には会社に戻り「今日は注文をもらえませんでした!」と言い訳する。ロクでもない日々が続いていました。今思い返すと、本当に反省しかありませんね・・。

 

 

ちょうどその頃、今の奥さんとの結婚を考え始めた時期だったんです。「このままサボり続ける人間でいいのだろうか。変わらなきゃいけない!」と切実に悩みました。

 

心機一転、転職しようと決めたのが27歳の頃だったかな。そうしたら駿河屋魚一のある方から「うちに来いよ」とお誘いもいただき、入社することになりました。

駿河屋で現場を走り回る日々

駿河屋に入社してすぐは、中山中学校の下に位置していた駿河屋西北店の青果部門への配属となりました。小さな店舗だったので、毎日いらっしゃる常連さんとはすぐに顔馴染みになります。

直にお客様と接する中で、「美味しかったよ」とか「また今度も仕入れてね」といった言葉をたくさんいただきました。ご挨拶から始まり、いろんなお話ができるのがすごく楽しいんです。前職では、消費者であるお客様の声がなかなか聞けなかったですからね。

 

その後、駿河屋昭和店のチーフに任命されました。アスモ店の前身のお店で、移転する前のプレイビーさんの下で営業してました。売り場や商品の管理、スタッフのマネジメントと仕事量は多かったので大変な日々です。だけど楽しく、一生懸命働きました。きっと現場で走り回っているのが好きなんでしょうね。

 

そうして基幹店となる駿河屋アスモ店の立ち上げに関わります。新店をオープンする機会はなかなかないので、一体どれだけのお客様がアスモへお越しくださるのか、想像が付かなくて不安だったのを覚えています。だけどオープン当日、開店の瞬間にたくさんのお客様がわーっと入っていらっしゃった。その光景は涙が出そうになるほど嬉しかったですね。忘れられません。

 

アスモ店の副店長として働いた後、当時の駿河屋ピュア店の店長を命じられました。通常は3年くらいで異動になるのですが、ピュア店は8年と長く働かせていただいた、思い出深い大好きな店舗です。

 

どこの企業・職種でも共通の問題ですが、スタッフとの関わりは難しいですよね。僕は自分で仕事をやってしまうタイプだったこともあり、意図を上手にスタッフへと伝えられなくて、その歯がゆさが苛立ちに繋がってしまう。長年越えられない壁でしたが、いろんな店舗を経験する中で、少しずつ自身の在り方が分かってきたような気がします。

異動した古川店でトマト店長が動き出す

ピュア店から、飛騨市の古川店への異動が決まったことが、赤い果肉の彼が登場する大きな転機となります。

 

 

それまでは各店舗で、SNSやブログを利用しての情報発信はしていなかったんです。そんな中、エブリフレスポ店が独自に特売商品をブログで紹介し始めていて、これは古川店でも真似してやってみたい!と思いました。そこでネット関係に強い古川の企業さんに相談して、SNSとブログをスタートさせたんです。

気合いを入れて日々、商品のご案内を更新するのですが、なかなか見てもらえないんですよね。フレスポ店のようには上手くいかない、苦しい状況でした。

 

そうした悩める日々を過ごしていた20155月、ついに赤い果肉の彼がやって来ます。最初はトマトの量販イベントを企画していて、何か面白いことをやりたいなと試行錯誤していたんです。悩みに悩んだ結果「トマト店長」が降ってきました(笑)。

 

 

トマト店長はトマトの国からやって来たので、野菜や果物の言葉が分かります。普段は店長の自宅に居候して、店長の仕事を勉強しているんです。つまりトマト店長と僕は別人なのですが、世界観を楽しんでいただくためにも、ゆるくご愛嬌でよろしくお願いします(笑)。

 

本当にトマト店長が売り場に出てよいのだろうか?そうした葛藤は当然ありました。だけどよく考えたら、開店前に写真を撮って「会いに来てくださいね」とブログに掲載していたんですよ(笑)。それでお客様が実際に行ってみたら、いないなんて嫌じゃないですか。これはとりあえず出てみよう!と、トマト店長が現場に繰り出しましたね。

 

 

想像以上にお客様の反応は良かったです。中にはびっくりされる方もいらっしゃいますが、子どもから大人までみんな笑ってくださるんですよ。これは嬉しかったですね。よっしゃーっ!!って気分です。

 

当初トマト店長の出番は、量販イベントが終わるまでの予定でした。しかし飛騨市の皆さまにすごく受け入れていただいて、想像以上に人気が出て来ちゃったんです。戸惑う程の喜びでした。

 

 

それからは日々、トマト店長としてSNSやブログで情報発信をしています。そうしたら古川店のブログが面白いぞと話題になり始めて、お客様の目に止まるようになってきました。「トマト店長のおかげで、お店に入るハードルが低くなった」とお客様に言われた時はすごく嬉しかったですね。

 

大好きな古川店を離れたくなくて、人事異動の内示がある度に断っていましたが、やがてエブリ東山店への異動が決まります。転勤が決まっても普通は特に公表はしません。だけど応援していただいたお客様には直接お伝えしていたんです。そうしたら最後の出勤日、仲良しの子どもちゃんが花束やお手紙をくれたり、多くのお客様がご挨拶にお越しくださりました。

 

 

あるお客様は「よし!そしゃ送別会やってやるでよ」と実際に企画していただきました。いちスーパーの店長が、地域の皆様に送別会を開いていただけるなんて、こんなことありえませんよ。心の底から感動しました。今でも事あるごとに「トマト店長が帰って来ました!」と、古川には遊びに行きます。僕の心の故郷なのです。

トマト店長から全国へと繋がりが生まれる

2017年の216日から、駿河屋エブリ東山店の店長を勤めています。もちろんトマト店長も一緒に配属されました。ありがたいことに高山の方にもトマト店長を知っていただいていたので、アウェー感もなかったからいけるぞと(笑)。

 

 

古川店の時から継続して、トマト店長としてSNSやブログで発信し続けているのですが、スーパーの店員とお客様が直接繋がって、お友達になれるなんてすごい時代ですよね。気づいたら業界関係者との繋がりも生まれたんですよ。

 

 

例えば、大分県佐伯市のセブンイレブンのオーナー「セブンさん」は、ウルトラセブンの被り物をして店頭に立っています。彼女はおちゃらけた内容を真面目にやりきっているんですよ(笑)。彼女とSNSで繋がって情報交換していたら、気づけば全国各地のセブンイレブンの店長やオーナーさんと繋がりましたね。

 

コンビニだけではなく、全国の流通業や食品スーパーの店長・社長さんとのネット上で繋がり、また実際に会いに来てくださる。こんなに嬉しいことはありません。お客様の中でも、わざわざ大垣市からトマト店長に会いに来たご夫婦もいらっしゃいましたよ。本当に人の出会いに恵まれています。

 

また駿河屋アスモ店の田口益男さん経由で知り合ったのが「わかめアニキ」こと、海産品卸業「リアス」の坂詰和仁さんです。わかめアニキはキャンピングカーで全国を回って、東北の三陸産ワカメを実演販売しているんです。

 

 

トマト店長を面白がってくれて、エブリ東山店にも来てくださったんです。わかめアニキとコラボ試食実演販売「絆ライブ」ができまして、こうして三陸石巻十三浜のわかめを皆さんに食べていただく、ご購入いただく事でも復興支援に繋がるんだなと、自分自身目から鱗でしたね。

 

わかめアニキに出会って、消費者と生産者の中間にいる流通業だからこそ、商品に込められた想いもお客様に伝えたい。真摯にそう感じたんです。ということでトマト店長が実際に、三陸石巻十三浜でわかめ漁にも同行してきました。トマト店長はどこでも行きますよ(笑)。

 

 

傍からは遊んでいるようにも見えるかもしれません。だけど仕事に繋がって、活かせているから続けられるのです。本当に楽しく仕事をさせていただき、それを応援してくれる会社なのがありがたいですね。

地域貢献の先に、トマトジジイを目指して

飛騨で好きな景色は、通勤途中に鍛冶橋辺りから見る宮川沿いです。総和町から東山店まで毎日歩いて、好きな音楽を聴きながら通勤するのが気持ち良いんですよ。

 

 

音楽はジャンルを問わず全般的に聴きますが、特にヘビーメタルやハードロックが大好きです。最近はガールズバンドの「BAND-MAID」にハマっています。もうめちゃくちゃカッコかわいい!全員メイド服で見た目はかわいいんだけど、ゴリゴリのハードロックです。ファンの方々を「ご主人様」と呼ぶ設定も面白くて、古くは「聖飢魔II」も好きなのですが、そういう設定に惹かれちゃうんですかね(笑)。

 

高山市民劇場に入って、趣味で芝居をやっていたこともあります。演劇の経験がトマト店長だけではなく、販促物やレイアウトにも生きているんですよ。劇団で演出を担当していた奥さん(トマト夫人)からは、よくダメ出しされますが(笑)。

 

 

一番大切にしたいことは「トマト店長」も「SNSやブログでの発信」もすべて、ご来店いただくお客様に喜んでいただくための活動です。プッと笑っていただき、お買い物を楽しんでいただく。これが大前提です。

 

とはいえトマト店長のキャラクターを活かして、地域の方により良い商品をお伝えしたり、日本全国の方々に駿河屋魚一を知っていただくこともミッションの一つだと自負しています。またトマト店長はイベントの賑やかしにも伺います。県外の方々にも、高山祭を始めとする飛騨の魅力を伝えたいですからね。イベントの司会もさせていただく事もありますので、どしどし皆様からのオファーをお待ちしております(笑)。

 

 

ドラッグストアやコンビニ、ネット通販だったりと、お買い物は地元のスーパーだけではない様々な選択肢が増えています。そこで勝負できるのは、働く「人」の魅力です。あの人が働いているからお買い物に行く。そんなおもてなしの心を目指して、僕自身まだまだ修行中です。

 

エブリ東山店はまだまだ伸びていくお店です。会社の理念にあるような「お客様とのこころが通い合う温かなお店づくり」を軸に、もっと楽しくて、ホッと一息つけるお店を目指していきます。そのためには従業員も楽しく働けるお店にしたいですね。

 

 

僕の夢は100歳まで生き抜いて、トマトジジイになることです。そのためにも日々健康志向で、人生を懸けてお客様を楽しませ続けます。エブリ東山店にお越しの際は、ぜひともトマト店長に声をかけてくださいね。

 

毎日楽しく明るく、お店を盛り上げているトマト店長。

その垣間見えた素顔は、真面目真摯にお客様と向き合い続けるプロの仕事でした。

トマト店長は今日も、飛騨人の健康と笑顔のために、元気に働いています。

連絡先

牧ヶ野芳男(まきがのよしお)
https://www.facebook.com/yoshio.makigano

「トマト店長のピーンッとやってみよう!」公式ブログ
https://ameblo.jp/makichin11216/

「エブリ東山店」ひだっちブログ
https://higashiyama.hida-ch.com/

株式会社駿河屋魚一 公式ホームページ
http://hida-surugaya.com/

「トマト夫人のお習字教室」ひだっちブログ
https://bimojiajinail.hida-ch.com/

 

この記事を書いた人

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丸山純平

丸山純平(まるやま じゅんぺい)
高山市出身。株式会社ゴーアヘッドワークス 企画/ライター
ヒダストのほぼ全ての記事を書いています。
最近は飛騨ジモト大学の事務局も担当。
一緒に飛騨を盛り上げたい方募集中!好きな食べ物はチーズケーキ。