飛騨は着物が似合う街。着物の良さを知ってほしい ー 津田亜樹(着付師)

photo by tengoqu

高山市で着付師として活躍する津田亜樹さん。

幼い頃から和物に興味があった津田さんですが、その半生が大きく動き始めたのは20代後半のふとしたキッカケからでした。

素敵な着物やお写真と共に、津田さんのストーリーをどうぞお楽しみください。

小学5年生で迎えた、可愛い反抗期

高山市下岡本町で生まれました。近所の子どもたちが男の子ばかりで、みんなで山に遊びに行ったりしていましたね。バケツいっぱいにミミズとか捕まえる、お転婆な子どもでした。

 

 

私は反抗期が来るのが早くて、小学校5年生くらいの時期に荒れていたんです(笑)。当時の駅前にあった「サンマルコ」で地下のゲームセンターに入り浸り、ひたすらお菓子掬いのクレーンゲームで遊んでいました。それと付近のお土産屋さんで、試食をたくさんつまみ食いして叱られたりしていましたね・・。やんちゃやったなあ(笑)。

 

昔から和のテイストには惹かれていたみたいで、ちょこちょこと着物を着せてもらった写真があるんです。風呂敷を使って、侍の格好をマネして遊んだりもしていましたね。お姫様ではなかった(笑)。そんな可愛い反抗期も、中学生になる頃には逆に落ち着きました。「なんて素敵にジャパネスク」という平安時代を舞台とした少女漫画が大好きで、いろんなアニメもよく観ていたので、ちょっとオタク気質な友人たちと交流していましたね。

 

高校進学では飛騨高山高校の情報ビジネス科に進学しました。家から近かったのが大きな理由で、やりたいことも特になく、地元で就職することしか考えていなかったですね。高校生からは弓道部に入りました。弓道をモチーフにした漫画がきっかけで袴姿に憧れたからです。

 

 

高校3年生の頃、公務員である父親の影響もあって公務員試験をいくつか受けました。本命の国家公務員試験では2次試験で不合格・・その頃周りはみんな進路が決まっているんです。たまたま遅い時期に募集してきた会社の事務職に滑り込みました。思い返すと周りに流されていた学生時代でした。

「スイミング」での裸の付き合いが大きなきっかけに

地元で社会人になりましたが、事務仕事はあまり好きではありませんでしたね。毎日同じ作業を淡々と繰り返して、出会う人も職場の方だけ。私にはあまり向いていなかったんだなと、最近ようやく気づきました。

 

仕事は微妙でも、プライベートは目一杯楽しんでいました(笑)。社会人になってから運動したいと思い、ひだホテルプラザの「ヒーロースイミングスクール」に通い始めました。小さい頃に少しだけスイミングを習っていたんです。このスイミングで知り合った方々と、山登りやスキーに行ったりして遊んでいましたね。

 

 

後々大きなきっかけをくださる、カメラマンの今村龍二さんともスイミングで出会ったんです。まさに裸の付き合いということで(笑)。

 

 

そうしてプライベートの充実で仕事とのバランスを取りながら、約9年その会社に勤めました。結婚して出産を機に仕事を辞めてからは、しばらくは育児に専念する日々を送り始めます。他にやりたいこともなかったんですよね。

 

今では高山着物レンタル「一華」と、ドレスと和装の「マリエクチュール」で働いています。接客には苦手意識があったのですが、今では毎日楽しいですね。ほどよい刺激や変化が欲しいのかもしれません。

着付けに目覚め始めた、26歳

26歳の頃に着付けを習いたくて、高山市内にある「山野流着装砂原道子教室」に通い始めました。母親が受け継いできた綺麗な着物とか、実家のタンスに眠っていることが多いじゃないですか。小さい頃からタンスを開けて、着物を盗み見するのが好きだったんです。だけど眠らせておくのはもったいないし、自分でも着られるようになりたくて。

 

 

着物を着ると気持ちが引き締まりますよね。着物を纏った時のおしとやかな雰囲気が好きで、魅力にハマっていきました。先生も褒め上手で、私の調子を乗せてくれるのも大きかったです(笑)。

 

そんな流れもあり「小紋」という普段着用の着物を用いた、着付けの北陸地区大会に出場することになったのです。周りからは「良い結果が出るんじゃない?」と言われていたのですが、当日は全然ダメでした。周りとのレベル差を感じられるほどの実力もなかった。すごくすごく悔しくて、帰りの車ではずっと号泣です。

 

コンテストは肌襦袢と長襦袢を着た状態でステージに上がり、制限時間15分以内に帯まで着付けます。時間制限はみなさんクリアされるので、やはり綺麗さですよね。いかに早く正確に着付けるかを試されます。 悔しいから次の年も挑戦しました。

 

 

教室に通うのは週一回ですが、家では毎日ちゃんと練習して、周りに褒められても「そんなことない!」と調子に乗らないように謙虚に(笑)。 おかげさまでリベンジに成功し、全国大会にも出場させていただきました。やっぱり大会の緊張感や、乗り越えての達成感はたまらない魅力ですね。

 

Facebookから生まれた「撮影会」

4年前くらいに「Facebook」を始めたことが次の転機となります。Facebookを通して、今まで普通のママ友だと思っていた友人たちがイベントを主催していたり、コーチングやカウンセラーだったりと、普段とは違う一面を続々と発見したんです。 私は「ママ友」としての姿しか知らなかったから本当に衝撃で・・。

 

逆に言えば、自分ももっとなにかできるんじゃないかな?そう考え始めたら「着物の良さをもっとみんなに知ってほしい」と思ったんです。そうしてポツポツとSNSに載せ始めた内容がきっかけで、徐々にいろんな活動に繋がっていきます。

 

photo by Ryuji Imamura

 

そんなある日、今村龍二さんから久しぶりに電話が来て「撮影会をやらない?」と言われたんです。思わず「はあ?」と聞き返しちゃいました(笑)。今村さんの趣味がカメラだったのは知っていたけれど、大変失礼ながら、プロとして活動するくらい上手だなんて知らなかったです。「私たちをモデルに撮りたい」と言われて、面白そうだから快諾しました。

 

そうして新緑の季節を背景に着物女子を撮る企画が立ち上がり、ほぼ自主企画ながらカメラマンが10人以上集まって、モデルも10人と大所帯での撮影会となりました。思い返せば「着物の魅力を発信したい」と今村さんにちょろっと相談していたんですよね・・。覚えていてくださって、こうしてお誘いいただいたのだなあと。

 

photo by 林満

 

私も友人たちを着付けしながら、帯をシェアしたり小物を選んだりと、コーディネートをする時間がとっても楽しかったんです。第二弾も提案してくださり、また秋にも撮影会を開催しました。

「普段KIMONO写真展」と「あかりんぐの会」コラボ

プロのカメラマンさん達に撮っていただいた写真が本当に素敵で、どうしても多くの方に見て欲しくなりました。「普段KIMONO写真展」として、飛騨信用組合さんで3週間ほど、写真展も企画・開催させていただきました。

 

photo by 日置元司

 

私自身で写真展を企画して、展示用にイーゼルや額をたくさん買いました。写真を展示する順序も写真の向きで考えたり、今まで全くそういった企画をしたことなかったのに不思議ですよね。それだけ見て欲しいなって思ったんです。

 

 

写真展を観覧してくださったご年配の方と仲良くなって「やっぱり着物はいいわね」なんて言われると嬉しいですね。私は着物に帽子を被ったりとアレンジをしているのですが、それも好評でした。

 

また着物の先生が「車椅子着付け」も行っていたんです。「私もやりたい!」と思ったのですが、私の流派ではその時期に講習会の募集がなかった。でも「鉄は熱いうちに打て」と言うじゃないですか。SNSで見つけた、名古屋のNPOが主催する勉強会に参加したんです。流派の先生には事後報告で、後から正式に習いました(笑)。

 

photo by Ryuji Imamura

 

習ったことを練習させてほしくて、私が子どもと通っていた乳幼児教室はぴるんの岩下彰子さんにお願いしたら、高山病弱児を守る会「あかりんぐ」代表の勝田なお子さんを紹介していただきました。あかりんぐのクリスマス会のコーナーで着付けをさせていただき、これが大好評。

今年の夏にはカメラマンの今村さんにご協力いただき、車椅子着付けと撮影会を企画したんです。最高の写真を撮っていただきました。

 

photo by Ryuji Imamura

 

今回の車椅子着付けでは、通常の着物を使用しました。しかし全国的には、様々なシチュエーションに対応した着物が増えています。まだまだ工夫や配慮の余地はありますね。

 

例えば「高山きものレンタル 一華」で働いている時には、外国人の団体のお客様がよくいらっしゃいます。傾向として、一般的な日本人とは体格や骨格が違うために困ることも多いです。「着物は大きい人でも小さい人でも着れる、優しい衣服だ」という言葉が好きなのですが、物理的な限界はありました(笑)。

着物の似合う街、飛騨だからこそ

高山で一番好きな景色はやっぱり乗鞍です。通学路だった高山北の跨線橋から見る乗鞍が、心にずっと残っています。結婚を機に丹生川に住んでいるんですけど、逆に近すぎて乗鞍が見えづらいんですよね。笠ヶ岳の方がよく見えるのかな。

 

江名子川沿いの落ち着いた雰囲気も良いですよね。観光地から外れてのんびりお散歩できるし、小さな橋がいくつもあるのも可愛い。

 

それと人の繋がりの濃さが私は好きなんですよね。丹生川に住み始めてからはなおさら。隣の家のおばあちゃんを気にかけるご近所付き合いとか、みんな知り合いって繋がりはすごいですよね。たまにめんどくさい時もあるけれど(笑)。

 

photo by 岡本浩孝

 

七五三を終えたら、次に着物を着る機会は成人式という方が多いかもしれません。しかし、成人式に着ることが多い「振袖」ですと、重くてキツくて大変なんですよね。当たり前ですが「振袖」だけが着物ではありません。「小紋」のような普段着用の着物を一度、着てみてほしいです。

 

せっかく着るのならば正絹(しょうけん:混じり気のない絹織物)がよいですが、汚れが気になりますし洗うのが大変ですよね。だけど肌触りが全然違うので、本当に気持ち良いですよ。そうした本物に触れられる機会を、若い子につくっていけたらいいな。そうして着物をディープに好きになってくれる人を、少しずつ増やしていきたいです。着物を着たら、それだけで「着物いいね!」って褒められますし(笑)。

 

photo by Ryuji Imamura

 

着付ければ着付けるほど、自分のレベルが見えてきます。経験値から言っても私はまだまだです。だけど発信する力だったり、着物を楽しむ企画をつくったり、そうした形で普及に携われたらいいな。

飛騨は着物が似合う街です。古い町並みや宮川沿いはもちろん、高山市図書館といった近代的な建物でも絵になります。まずは一回、着てみてほしいです。 直近ではエステティックサロンの「ドュースフレール」さんとコラボして、みんなで着物を着て神社へ参拝に行くイベントを企画しています。着付師が私だけなので定員4人と少人数ですが、逆に安心してご参加いただけたらと思います。

 

先日参加した高山YEG(商工会議所青年部会)主催の講演会で、ゲストの村尾 信尚さんが仰っていた言葉が心に残っています。「明確なビジョンはなくても、動き続けている人が何かを掴む」

 

私は大きなビジョンがあった訳ではありません。でも小さくても少しずつ行動して、今後も着物に興味を持ってくださる目の前の方へ、真摯に向き合っていきます。なによりも私自身が、着物とこの街が大好きだから。

 

photo by 岡本浩孝

 

「飛騨は着物が似合う街だから。」屈託のない笑顔でそう語る津田さん。

着物に触れる機会も少なく、どこか遠い存在になっている昨今。
津田さんは少しずつ、飛騨の過去と未来を繋ぐ文化を紡ぎ直しています。

連絡先

津田亜樹
https://www.facebook.com/profile.php?id=100011155669117

 

この記事を書いた人

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丸山純平

丸山純平(まるやま じゅんぺい)
高山市出身。株式会社ゴーアヘッドワークス 企画/ライター
ヒダストのほぼ全ての記事を書いています。
最近は飛騨ジモト大学の事務局も担当。
一緒に飛騨を盛り上げたい方募集中!好きな食べ物はチーズケーキ。