ダンサーからパティシエへ、地元に愛される「椿カフェ」を作る ー 坂之上智代 ( 椿カフェ 店長 / パティシエ )

JR高山駅から古い町並みへと抜けていくレンガ通り、高山市天満町に位置する人気店「椿カフェ」の店長を務める 坂之上智代さん。

店長としてお店を切り盛りする傍ら、パティシエとして椿カフェで提供するケーキやプリンなどを全て手がけていらっしゃいます。そんな坂之上さんですが、元々はダンスのインストラクターであり、お菓子作りも苦手だったそう。

何が起こるか分からない人生の舞台で踊る、坂之上さんの甘くビターなストーリー、ぜひご覧ください。

「beeDanceStudio」でダンスのインストラクターになるのが夢

高山市で生まれました。小さい頃は人見知りがひどくて人前に出るタイプではありませんでした。

小学生の時に、当時流行っていたダンス&ボーカルグループ「SPEED」に憧れてダンスを始めます。中学校では一度ダンスから離れて、兄がIT関係の仕事に就いていたので、なんとなく飛騨高山高校の情報処理科に進学しました。

父親はフレンチの料理人だったのですが、私が父の料理を作っている姿を見たのは「椿カフェ」を始めてからですので、進路決定には全く影響を受けていません(笑)。

特に目指したいこともなく、やりたいこともコロコロ変わっていたのですが、高校でもう一度ダンスを始めます。「beeDanceStudio」に通っていたのですが、高校生の時にはインストラクターもやらせていただくなど大変お世話になり、いつかbeeに戻ってきて次世代の指導をするのが夢になりました。

 

高校卒業後は名古屋コミュニケーションアート専門学校のダンサー専攻に通います。朝から晩までひたすら踊る学生生活はとっても楽しかったです。そのまま名古屋で2年間インストラクターのお仕事をした後、高山に戻ってきてbeeのインストラクターをさせていただきました。コンビニのバイトを掛け持ちしながらの生活でしたが、すごく充実した日々でしたね。

23歳で「椿カフェ」の店長になる。働きながら勉強したパティシエの道

そんな折、飲食店を展開していた父から「新しくオープンするカフェの店長をやらないか?」と誘われました。名古屋に住んでいた頃に、スターバックスコーヒーでアルバイトをしていたこともあり、挑戦してみたい気持ちが芽生えたのです。

ダンスのインストラクターへの未練は、正直ありました。ですが、カフェのオープンに向けてスタッフが増えていく度に、半端な姿勢は見せられないと覚悟を深めます。それに家業である以上、「坂之上家の娘やからな」なんて言われるのは絶対に嫌でした。ですので大好きなダンスとの関わりを断ち、23歳で「椿カフェ」の店長を任されます。

とは言え、スタバでアルバイトをしていた以外の経験は何もない超ど素人です。お菓子を作ったこともなければ、スタッフのマネジメントもできない。椿カフェのメインメニューはスイーツですので、店長として毎日働きながら、通信の専門学校でパティシエについて学びました。スイーツ協会に入る試験を受けて、パティシエとしてのキャリアが始まります。

さらには、ワインや料理も提供し始めることとなり、外国人観光客もたくさん訪れる街だから英語も喋らなければならない……どうしようか悩んだことなんて数え切れないですが、結局は全部同時進行で、働きながら勉強するしかありません(苦笑)。夢中で走り抜けてきた7年間でしたね。

自分がやると決めたことで、挫折したりとか弱音を吐いたりするのが嫌なんです。向上心高くポジティブにいられるのは、ダンスの経験が大きいですね。自分でどんどん技術を磨いていかないと取り残されていく世界でしたので、ダンスに真剣に取り組んだことは私の人生の原点です。おかげで、ここまでお店を続けることができました。

パティシエは「繊細な力仕事」であり、「勉強量」が美味しさを決める

パティシエのお仕事って、毎日可愛いケーキを作って、生クリームを絞って……みたいな綺麗なイメージかなと思うんですけれど、全く華やかな世界ではないです(笑)。

はっきり言えば、勉強量がケーキの美味しさを決めます。材料一つ一つの作用や適切な分量、作業工程の意味や効果を知り尽くさないと、作り方に工夫が生まれません。その上で、ケーキやお菓子に関する歴史や知識を知り、お客様にも説明しなければなりません。用語にフランス語が多いので勉強するのも大変です(笑)。

それとスイーツ作りは「繊細な力仕事」ですので、体力と根気と集中力が必要です。そうして必死に勉強したことを、日々実践して試行錯誤していく。ケーキを一つ作るにも、実際はさまざまな要素や工程からできています。つまりは無限に工夫できるんですよね。

だからこそ、知識や技術を発揮できる瞬間がいっぱいあります。お客様は正直なので、反応がダイレクトに伝わってきますよ。もちろんヘコむときもいっぱいあります。でも、美味しいと喜んでくださったり、「すごい!」と感動してくださったり、それだけで疲れも全て吹っ飛びますね。

手作りのケーキやプリンが、これだけの種類並ぶカフェはなかなかないという自負があります。椿カフェの魅力の一つですね。

地元に愛される「椿カフェ」を作る。7年目も良いカフェへと成長し続ける

JR高山駅の近くに立地していますので、外国人観光客の方にも多くお越しいただけます。アジアの方からヨーロッパの方まで幅広く、全体では日本人のお客様と半々くらいですね。

実はオープン当初から、椿カフェを世界に展開することを目指していました。ですので、こうして多くの国の方、多様な人種の方が食べてくださって、世界共通の「美味しい!」を提供できていることを嬉しく思います。

 

だけど悔しいのは、まだまだ地元の方に椿カフェを認知していただけていないことです。立地や雰囲気から「観光客向けのカフェ」というイメージを持たれている方が多いかもしれませんが、本当はもっと「地元に愛されるカフェ」にしていきたいのです。

たくさんのお客様にご来店いただいて忙しい時こそ、一人一人のお客様のことを想って接客することを意識しています。ましてや飛騨高山は観光地。せっかく遠方からお越しくださった方には、一期一会の良いサービスを提供したいですし、自信を持って美味しいケーキを提供したいですね。

 

最終的には、接客もケーキを作るのも「誰かを喜ばせたい」の一言に行き着くと思います。そして椿カフェには不思議と、そんな想いに共感する、向上心があるスタッフが集まっています。7年目の椿カフェですが、どんどんより良いカフェに成長している実感がありますよ。ぜひ遊びに来てくださいね。

 

入れ替わり立ち替わり、多くの観光客が行き交う飛騨高山だからこそ、一見さん相手に見栄えだけ良くしたお店もあれば、ハイレベルなサービスを提供するお店も混在しています。

「椿」の花言葉は「控えめな素晴らしさ」。7年目を迎えた「椿カフェ」は今後もひたむきに努力を重ね、今日もケーキを頬張るお客様には笑みが溢れます。

連絡先 / 店舗情報

坂之上智代(さかのうえともよ)

「椿カフェ」
https://ken-corporation.com/tsubakicafe/

住所:高山市天満町5-7-6
営業時間:9時〜17時 (不定休)
TEL:0577-57-8560

 

この記事を書いた人

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丸山純平

丸山純平(まるやま じゅんぺい)
高山市出身。株式会社ゴーアヘッドワークス 企画/ライター
ヒダストのほぼ全ての記事を書いています。
最近は飛騨ジモト大学の事務局も担当。
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