創立93年、飛騨地域の金融の要として、地域経済の発展を支えて来た「高山信用金庫」。そんな「たかしん」で、唯一の女性総合職として活躍する政井浩美さんを取材しました。
語学を活かせる仕事に憧れ、金融業界には全く興味がなかった政井さんがたかしんに入庫した理由は?どんな価値観で仕事に携わっているのでしょうか。
「人との出会いを大切に」そう語る政井さんの想いや価値観をご一読ください。
人と関わるのが苦手・・。文学と語学に夢中だった学生時代
高山市森下町で生まれました。小さい頃から人と話したり大勢で過ごすのが苦手で、図書館に毎日入り浸るような性格でした。中学校で出会った英語に惹かれて、高校でも変わらず英語が好きだったため、外国語大学を目指します。でも受験で上手くいかなくて、関西学院大学文学部に進学しました。
大学入学当時もまだ、人と話すのが得意ではなかったわたしにとって、勢いのある関西弁は怖かったですね(笑)。フランス文学や言語学を学んでいたのですが、大学の講義は楽しくて、大学生活の後半には留学もさせてもらいました。その過程で少しずつ、人見知りを克服していったのかもしれません。
そうして就活の時期を迎えるのですが、地元に戻ることは全く考えておらず、都会で語学を活かせる旅行会社や宿泊施設を何社も受けました。しかし、一社も受からないのです・・。今振り返ってみると、自分が本当になにがしたいのかを分かっていなかったと思います。それなりに進んできた人生で、初めてぶつかった大きな壁でした。
そんな折、親の勧めもあって地元の企業も調べてみたんです。それで高山信用金庫(以下たかしん)の本店を見学させていただく機会がありまして、金融のお仕事を間近で見てみました。金融業界の知識はなにもなかったけれど、面白そうでカッコよく感じ、採用試験を受けて入庫させていただくこととなります。
金融に深く携わるほど、お客様とどこまで真摯に関われるのかが大事
最初は出納(すいとう)係という、お金を数えて出す仕事から始まります。その後、オペレーター(後方支援)を経験し、テラー(窓口)を担当するのが花形といったイメージです。
仕事は楽しい反面、どこか都会の生活への憧れもありました。そんな折に、会社内の回覧物で「ファイナンシャルプランナー」という資格を知ります。挑戦してみたのですが意外と難しくて、何年受けても受かりませんでした・・(笑)。
結局、お客様のために勉強して活かしていくという意識が薄かったら身につきませんよね。勤続年数が増す中で少しずつ、腰を据えて仕事しようと、時間をかけて落とし込んでいったのかもしれません。
入庫して数年、当時の支店長から「総合職にならないか?」とお誘いを受けたのが次の大きな転機でした。わたしが入庫した当時は、男性はみんな総合職採用で女性はみんな一般職(事務的な仕事)採用と、性別で雇用区分が分かれていました。男女雇用機会均等法の改正もあって巡ってきたチャンスに「やります!」と応えます。
そうしたら、「今日からは窓口じゃなくて外回りをしてください」と言われまして(笑)。ある程度お客様のことを把握してはいたものの、営業や集金で外回りをするのは正直怖い部分もありました。お客様も「女の子が外を回るの・・?」と戸惑う方もいらっしゃいましたが、すごく可愛がっていただき、時が経つにつれて解消されていきます。わたしのケアをしてくださった当時の支店長には今でも感謝の想いでいっぱいです。
その後、融資業務を主に担当するようになって、お客様との関わりがより深くなっていきました。人生や会社を左右するだけの金額を融資させていただくので、さまざまな可能性、リスクを想定しなければなりません。お客様や、お客様を取り巻く方々のお話をよく聞いて、お客様の背景を想像することのウエイトが大きい仕事です。時には、お客様にとってご都合が悪いことでも、はっきりとお伝えしなきゃいけないこともあります。そのときにご納得いただけるかは、自分がどれだけ真摯に携われるのかどうか。その姿勢が大事ですね。
そうした大きな責任はプレッシャーでもありましたが、同時に「この仕事に長く携わりたい」と思うきっかけでもありました。任せていただいた方から「あなたのおかげで今の私がある」とお礼を言われたことがあり、単純にうれしかったですね。
「時間」は圧倒的な財産。金融リテラシーの向上が、ミライをつくる
決済サービスは多様化していて、機械やAI(人口知能)に代替される部分が多くなっていきます。とくに定期的に必要な、公共料金の引き落としやお給料の振込などは代替されやすい部分です。であるならば、人生において必須ではないですが知っておいた方が良い選択を、提案していくことは人間じゃないとできないのかなと思います。
わたしは現在、資産運用のご相談を主に担当しています。お金を増やすには「預金」では難しい時代です。飛騨地方は大学や専門学校に進学しようとすると、親元を出て一人暮らしをせざるをえない環境です。つまりは、進学を考えた時に資金準備をしなくてはいけない地域ですよね。金銭を理由として進学を諦めることのないように、資金計画をしっかり立てて投資を行いましょうとお伝えしたいのです。
「投資はお金持ちじゃないとできない」と思われてしまいがちなのですが、わたしとしてはぜひとも若い方に投資をオススメしたいです。
例えば、60代から始めて、もともと培ってきた資産を延命させる投資もとても重要です。しかし、時間軸で考えた場合、若いうちから考えていたら、時間を有効に活用して財産を少しずつ増やすチャンスがあります。若者が一番所有している財産は「時間」であり、「時間」に勝る財産はないのです。
なによりも、飛騨地方の未来を想えば、投資やお金に触れる機会や知識が増える「金融リテラシー」の向上は良いことがあります。金融知識が深まることで、詐欺被害に遭うことが減ったり、ライフプランを計画的に立ててリスクヘッジをしたり、考えてくださる方が増えたらいいですね。
そうしたお話を、気軽にご相談していただけるのがたかしんの強みだと考えています。たかしんの経営理念は「相互扶助・共存共栄」であり、事業者様の規模も個人の方から大きな企業の方まで幅広くご対応しています。なにか別の用事のついでにポロっとご相談できるような、地域の身近なパートナーとして頼っていただけるように日々頑張っております。
時間をかけて遠回りしてきた、わたしだからできること
いろんな人の知識や言葉や想いをお借りして、ここまで生きてこれたのかなと思います。それでも当時、総合職を選んだ女性はわたしだけで、今でもわたし以外に女性総合職が一人もいないのは当金庫の現実です。
女性活躍を叫ぶ世の中で、しっかりと女性がキャリアを形成していけたり、出産・育児を経てお仕事に復帰するのは当たり前の時代です。たかしんの中で、わたし自身ができることはまだまだたくさんあります。もちろん総合職が良いわけではなく、押し付けたくもありません。それぞれの事情や希望に合わせた、いろんな就業体系があってよいと考えています。その方が生産性も上がるのではないでしょうか。これから深く学んでいきたい領域ですし、できそうなことがあれば自分自身で実験してみたいですね。
そんなことを考えていたら、今年の3月からは週に3日はたかしんで、週に2日は飛騨高山大学連携センターへ出向しています。次世代の担い手の育成や事業継承の支援をしているのですが、たかしんの仕事とリンクする部分はたくさんあります。
時代に関係なく、自分の思い通りにはならないのが人生です。大事なのは、斜めから見るのではなく自分が置いていただいた環境で、まずは一生懸命やってみることですよね。外国語を使う仕事ではないから腑に落ちないとか、そういうことではない。
目の前のことに一生懸命取り組んで、それが自分の中で価値としてつくり出された。それがたまたま、わたしは金融でした。もちろん、旅行会社に勤めていたらどうだったのかは分からないですけどね(笑)。
なんて偉そうに言えるのは、わたし自身がすごく時間をかけて遠回りしてきたから。そして、この仕事を続けてこれたのは、お客様からいただいた励ましや感謝の言葉であり、助けてくれる上司や後輩とチームで成し遂げた喜びがあったからです。人との出会いに救われてきました。
これからは次のたかしんを担う世代のため、ひいては飛騨地域の経済や未来のため、わたしにできることに取り組んでいきます。また遠回りすることがあるかもしれませんけどね(笑)。
「人との出会いを大切に」。真摯に人と関わる政井さんの姿勢は、性別関係なく、本当に信頼できる「地域のパートナー」の姿そのものでした。
地元金融機関として飛騨地域の経済を担う、高山信用金庫の理念は「相互扶助・共存共栄」。助け合い、共に未来の飛騨をつくっていくためにも、政井さんは人と関わり続けます。
連絡先
政井浩美(まさいひろみ)